前回vol.1のコラムでは、研修が受け身になってしまう性質から、どのようなことをマインドセットしておくべきか、受講者、主催者(人事)側のそれぞれの観点で触れました。
効果測定する研修を検討することや、どのような基準で行うかといった点を決めておくことはもちろん重要です。ただ、ブレイクダウンした対策を考える前に、もう少し考えておくことがありそうです。
今回のvol.2では、歴史的視点も入れつつ、社員教育・人財育成そのものを捉え直し、議論しておきたいと思います。
なぜ、社員教育・人財育成が必要なのか?
結論的に、自社が「生き残るため」(収益を向上させていくこと)だと考えます。社員が変化・成長できなければ、経営的に立ち行かなくなることが、組織的な本能として認識されているからだと考えます。もちろん、経営者がこの点に気づいていることが一番重要です。
そもそも、会社は仕事をする場であり、学校のように学ぶ場ではないはずです。しかし、社員教育・人財育成を行うのは、そうしない場合のリスクから、逆説的に考えられそうです。
社員教育・人財育成や組織開発を優先しない会社は、次のような課題対応を迫られているように見受けられます。
・経営ビジョン・理念が浸透しない
・管理職と現場が分断されがち
・属人的な仕事をする人が多く、事業が成長できない
・人事評価に公平さがなく、現場の士気が低下している
・離職率が高い、エンゲージメントが低い
・欲しい人財が採用できない 等々
これらの項目に応急処置の対策をとっても、根本的な解決からは遠いままです。
昨今、ESG投資の潮流から、人的資本開示が義務化されたこともありますが、緊急性の高い上記の対応に追われないためにも、自社なりの社員教育・人財育成の意義を捉え直すことが肝要です。
つまり、『その研修を行わなかった場合に、社員はどうなるか』という根本的な問いがあっても良いと思います。そのことで、何が生き残るための組織的本能かが見えてくるかもしれません。一見、社員が前のめりで受けている教育であっても、実は組織の成長という観点では疑問符が付くことも多々あると想定できます。
企業の教育・育成を大別すると…
会社で行う教育・育成は、大きく2つに分けられ、それぞれに目的と特性があると考えます。
1)
<目的>
自社の理念に基づく技術や商品サービス、ビジネスモデル、営業方法を習得すること
<特性>
独自性が高く、短期的に習得する
2)
<目的>
役割(役職)に応じて仕事の能力・スキルをあげること
<特性>
汎用性が高く、長期的に習得していく
これらの大別したものを、社内のスキルニーズや経営からの要請に応じて、計画を立て、具体化していくのが大筋です。
ただし、教育・育成といっても研修形態をとっているとは限りません。OJT教育であったり、日々職場での業務中の指導であったりと、寧ろその領域の方が、研修よりも割合的に高い状況です。教育手段としては様々な形態があると言えます。
なぜ、教育に「研修」が多用されるようになったのか?
企業における教育・育成は、人事戦略や育成方針に基づき、体系化された中で、研修やOJTとして行われています。しかし、例外が例外とならないくらい、多くの方法やケースで溢れています。
その中にあって、大手企業になるほど「研修」を重視している傾向があると実感しています。これは社員数の多さにも関係していて、質の高いプログラムを均等に行うことで、スキル差や能力差を是正するためと思われます(異動・配置転換にも有効なため)。
もちろん、それ以外にもサクセッションプラン、次世代型リーダー研修などは、ボトム(均等性)を意識したものではなく、トップ層のための育成です。しかし、社員選抜で行うこれらの研修は、結局トップを支える次の層が厚く充実していなければ、行い難いものです。
ではそのような傾向にある「研修」は、歴史的にどのように発展してきたのでしょうか。
研修が体系化する変遷の中でも、変わらないもの
戦後の高度経済成長期(1950年代)では、大量生産による市場拡大の流れで、上記 1)を主体的に、技能教育が行われていました。多くの社員が基礎的な技能を習得し、生産力を上げるためです。
とは言え、一昔前の日本ですから、上司や先輩社員の背中をみて仕事を覚える、といったことが普通であり、特別に研修などで教えるというよりも、現場で怒られながら一人前になっていくのが常道だったように聞いています。
その後、技能を多くの社員に教育していく方法から、上記 2)のように、各役割(役職)に応じた教育へと変わっていきます。量から質を重視した教育です。いわゆる階層別研修などで、人事の職能と関連した教育が体系的に発展して行きます(1970年代から)。
バブル期(1980年代後半から)に入り、大手企業などで新卒社員が大量に採用される時代になり、研修はよりシステマチックに計画され、均等性を保持しながら実行されていくことになります。
さらに、バブル崩壊から失われた20年が経過する中で(1990年代〜2010年頃)、階層別研修は企業の人財育成として定着しました。この時代の後半では、グローバリゼーションの大きな波の中で、グローバル人材育成や次世代型リーダー育成が着目されました。そしてコロナ禍を経て、今はDX人財育成、リスキリングなどがトレンドになっています。
最近は、少し前と比べ、外部環境の変化や多様性に追いつけない状況も発生し、育成のトレンドが抽象的なものになっているようにも捉えられます。迷走しないためにも、軸足はしっかりと固めておきたいものです。
時代や世界環境の変化の中で、様々な教育、研修が行われていますが、トレンド的な研修であっても、上記の1)、2)の【目的】【特性】に帰着すると考えます。これらが社員教育・人財育成を支える軸であることには変わらないのです。
まとめ:研修効果の見える化、育成の成果が重要度を増す理由とは?
不確実性の高いVUCAワールドとなった今、社会・経済が相当に複雑化しています。ビジネスが急速に変わっていく現代においては、実務優先対応は否めません。かと言って社員教育、人財育成を行わなければ、組織がまとまらず、生き残れなくなってしまいます。
となれば、自社を取り巻く環境変化に応じた教育、育成が肝要となります。先述の、1)、2)を軸に、教育プログラムや研修を早いサイクルで実施、検証・改善できなければ、変化に対応できる人財育成は難しくなるでしょう。
このサイクルを回すプロセスにおいては、実施している教育、研修等の効果を測定することが必須と考えます。社員がどのように学びを活かし成長しているのか、といった研修転移の情報が必要です。そして、成長性の低かった学びの機会(研修・OJT等)をどう改善するか、といった次のアクションを早めに取ることが肝になります。
後工程における社員の変化が把握できれば、変化の激しい現場の育成ニーズに、的確に対応した研修ができるようになります。実践的な内容であるほど、現場での活用を意識して受講する人も増え、受けっぱなしを防止することにもつながるでしょう。これは理想を述べているのではなく、冒頭に触れた組織的な本能、生き残るための教育に直結していくのです。
via-learn編集部